膝前十字靭帯はスポーツ活動中や転倒・事故などで受傷し、スポーツ選手にとっては、選手生命を脅かす最も重大な外傷です。
放置すれば、スポーツ復帰が叶わないだけでなく、二次的な半月板、軟骨損傷(変形性膝関節症)を来します。
受傷前のスポーツレベルに復帰するには手術が必要です。スポーツをされない方でも、日常生活で膝崩れを自覚する場合も手術をお勧めします。
手術は関節鏡を用いて行い、ハムストリング腱を用いた解剖学的二重束再建や、最近海外で注目されている大腿四頭筋腱を用いた再建術もいち早く導入しております。
術後2~4週で松葉杖が取れ、3カ月でジョギング動作を行い、最終的には靭帯の成熟度や筋力の回復や動きの安定性を確認して競技復帰を目指します。
半月板は膝のクッション材として非常に重要で、半月板の機能不全は軟骨損傷を引き起こし、膝の痛みや水腫で生活の質を大きく損ないます。
半月板は小児~中高年まで多くの年齢層で損傷の機会があり、小児期では先天的な形態異常である外側円板状半月板、成長期以降ではスポーツでの外傷、中高年では経年劣化による水平断裂や後根断裂が主な治療対象です。
小児や運動選手など活動性の高い方、中高年の後根断裂には基本的に早期の手術をおすすめします。
中高年で多く見られる水平断裂では、リハビリテーションなどの保存加療で症状が改善しない場合、手術の対象です。
当院では可能な限り縫合を行い、半月板機能の温存に努めます。
半月板縫合後のリハビリは2~4週間の松葉杖歩行、3カ月以降でジョギングを開始し、6カ月以降にスポーツ復帰を許可しています。
離断性骨軟骨炎は成長期に生じる膝関節骨軟骨の剥離骨折です。
安定期や骨端線開存例では、ドリリング(骨穿孔)法で自然治癒を促進したり、骨軟骨片を再固定します。
不安定期では膝の健常な部位から骨軟骨柱を移植し、広範囲な病変には、再生医療の一つである自家培養軟骨移植術を行います。
術後は、3カ月以降にジョギング、6カ月以降でスポーツ復帰を許可しています(自家培養軟骨移植術の場合はスポーツ復帰は12カ月以降となります)。
また、O脚変形を来した初期~進行期の変形性膝関節症には高位脛骨骨切り術を行い、X脚に矯正し内側への荷重ストレスを減らします。
「お皿が抜ける」といった症状は膝蓋骨と大腿骨をつなぐ靱帯が緩むことで生じます。
初回脱臼後半数以上が反復性に移行するとの報告もあり、注意が必要です。
当院では自家半腱様筋腱を用いた内側膝蓋大腿靱帯再建術を行っており、骨のねじれが強いものには脛骨粗面移行術も併用しています。
術後は、2週間の松葉杖歩行、3カ月以降でジョギングを始め、6カ月以降でスポーツ復帰を許可しています。
膝のお皿の下の部分、膝蓋腱が脛(すね)の骨に着く部分の痛みと腫脹(はれ)です。
思春期に骨が急成長する時に、骨の成長に腱や筋肉の成長が追い付かないときに起こりやすいです。
成長期には日ごろから筋肉を伸ばすストレッチングが不可欠です。
足を内側に捻ったり、段差を踏み外した際に受傷し、足首の外側にある3つの靭帯損傷が生じます。
症状は主に足首の外くるぶし周囲の腫れと痛みです。
受傷早期はギプス固定やサポーター固定を行い、リハビリでの筋力強化などを併用して治療します。
一方で陳旧例、リハビリを行っても症状が改善しない場合や変形性足関節症、距骨の軟骨損傷を認める場合には手術の適応があります。
手術は関節鏡を利用し残存した靭帯を修復します。
靭帯修復単独であれば手術時間は30分以内です。術翌日からサポーター装着下での全荷重歩行が可能です。
通常、入院期間は3日間です。
足関節内反捻挫や足関節背屈強制された際に腓骨筋腱脱臼が起こる可能性があります。
急性期は保存治療で治る可能性もありますが、保存治療では再発率は高く、手術が推奨される疾患です。
症状は腓骨筋腱に沿った痛み(外踝の後方)、腓骨筋腱の脱臼感です。
確定診断は腓骨筋腱脱臼の再現ですが、再現できない症例も多く、近年はエコーで上腓骨筋支帯が外踝から剥離していることを確認することで確実な診断が可能となりました。
ただの捻挫と診断されたまま長期間放置されている症例も散見されますので腓骨筋腱の脱臼感でお困りの方は受診をお勧めします。
保存治療の場合は3~4週のギプス固定が必要です。
手術は内視鏡を利用し小皮切で仮性嚢を縫縮し、再脱臼の要因となる腱鞘内病変の治療を同時に行っています。
手術時間は30分程度、入院期間は3日間で術翌日から全荷重歩行可能です。スポーツ復帰は8週程度が目安です。
三角骨障害は足首の後方に存在する三角骨と呼ばれる副骨がつま先立ちやインステップキックの際に周囲の組織に挟み込まれて痛みを生じる疾患です。
三角骨以外にも距骨後突起や足首の後方の靭帯、腱などがつま先立ちの姿勢で周囲の組織とひっかかって痛みを生じる場合もあります。
保存治療を行っても症状が取れない場合は手術の適応があります。手術は関節鏡を用いた5mmの傷が2つでひっかかりの原因を取り除きます。
手術時間は15~30分程度です。術翌日から通常の靴で歩行可能となり早ければ術後1週程度でスポーツ復帰可能な場合もあります。
入院期間は通常3日です。
距骨骨軟骨損傷とは骨折や捻挫などの際に距骨にストレスが加わり血流障害を起こし、軟骨が剥がれ落ちる病態です。
運動時・歩行時の足首の痛みが生じます。
急性期は保存治療の適応がありますが、急性期を過ぎて痛みが残っている場合は手術が必要になることがしばしばあります。
特に足関節外側靭帯損傷を伴う場合は病気が進行するリスクが高くなります。
手術は関節鏡を利用し骨軟骨片を固定する方法、損傷部の骨を刺激して骨の再生を促す治療や自分の骨を移植する方法などがあります。
重症度や病変の大きさによって手術方法が変わりますが、手術時間は概ね30分以内です。入院期間は通常3日間です。
リスフラン靭帯損傷はジャンプやダッシュ時につま先で地面を蹴る際や、前足部での着地動作時に受傷することが多い疾患です。
受傷早期は足の甲が腫れ、足底に皮下出血を伴うことが多いです。
リスフラン靭帯は足部アーチの頂点を支持する重要な構造物ですので、適切な治療を行わないと徐々にアーチが崩れて扁平足や外反母趾、変形性リスフラン関節症などの慢性疾患の原因になります。
第2中足骨と内側楔状骨間が明らかに開大している場合は手術が必要です。
手術は1cm程度の皮切を2~3か所加えて人工靭帯による靭帯再建を行います。
手術時間は15~30分程度で、術後4週程度は踵歩きになります。
スポーツ復帰は概ね術後3カ月程度になります。
入院期間は3日間です。
※陳旧性リスフラン靭帯損傷(受傷後3年)術前後X線
外反母趾は母趾が小指の方に曲がってくる変形です。
原因には、足の形、足に合わない靴、ハイヒールなど様々な要因が考えられています。
おもな症状は母趾や足底のたこによる痛みですが、重度の変形では母趾での踏み返しがうまくできないため歩行のバランスが悪くなり様々な疾患の原因になる可能性もあります。
保存治療としては筋力強化、ストレッチ、インソール、矯正装具などがありますが保存治療での変形治癒は基本的には難しい疾患です。
整容的な問題で手術を希望される場合、日常生活に支障がある場合や重度の変形がある場合は手術の適応があります。
手術は変形に応じて第1中足骨遠位骨切り、Lapidus法(TMT関節固定術)を行っております。
手術時間は外反母趾単独であれば30分~1時間程度です。
いずれの術式も術翌日からオルソウェッジという踵歩きのサンダルで歩行可能ですが、普通の靴が履けるのは術後6~8週程度かかります。
入院期間は最短4日、長期間の入院を希望される場合は2週間程度です。
成人期の扁平足変形は後脛骨筋腱やスプリング靭帯などのアーチ支持機構が破綻することによって徐々に変形が進む疾患で後脛骨筋腱機能不全とも呼ばれます。
おもな症状は足首のうちくるぶし周囲の腫れと痛みです。
変形が進むと外くるぶし周囲にも腫れや痛みが生じます。
インソールや筋力強化などの保存治療を行っても症状が改善しない場合や変形が重度の場合には手術の適応があります。
手術は変形に応じて長趾屈筋腱移行術、踵骨内側移動骨切り、外側支柱延長術、スプリング靭帯再建術、TMT関節固定術などを組み合わせて行います。
通常、術後2週で装具をつけて歩く練習を開始し、術後2カ月で普通の靴が履けるようになります。
入院期間は2~3週程度ですが、松葉杖による歩行が上手にできれば早期退院も可能です。
強剛母趾は母趾の付け根の関節の変形性関節症です。
母趾背屈時や歩行時の母趾の付け根の痛みが特徴的です。
保存治療としてはインソールやリハビリでのストレッチ・筋力強化を行います。
保存治療の効果がない場合や疼痛が強い場合は手術の適応があります。
強剛母趾の手術はcheilectomyと呼ばれる骨棘切除、関節固定、人工関節置換術、第1中足骨の骨切り術などがありますが当クリニックでは基本的にcheilectomyを行います。
Cheilectomyは手術時間が短く(15分程度)、術翌日から手術をした足に体重をかけて歩行可能であるという利点があります。
また、重症例に対しても他の術式と比較して遜色ない十分な効果が期待できることがすでに報告されており、当センターでの治療成績を見ても関節包の十分な剥離や術後早期リハビリテーションを組み合わせることで重症例に対しても有効と考えています。
入院期間は通常3日です。
変形性足関節症は足首の形態異常、ねんざの繰り返し、骨折などの外傷が原因となり足首の関節が破壊される疾患です。
主な症状は足首の周りの腫れや痛みです。
保存治療としてはインソール、サポーター、鎮痛剤による疼痛コントロールなどがありますが保存治療で正常な関節に戻ることは基本的にありません。
保存治療の効果が乏しい場合は手術の適応があります。
手術は変形の程度、変形性関節症の原因によって術式が変わります。
ねんざを繰り返している方で変形が少ない場合は関節鏡を用いた靭帯修復を行う場合もあります。
中等度の変形に対しては脛骨骨切りや踵骨骨切りによるアラインメント矯正を行い、重度の変形に対しては関節鏡を用いた小侵襲での関節固定術や直視下での関節固定術を行います。
手術時間は関節固定術(30分~1時間)、骨切り術(1.5時間)程度です。術式にもよりますが術後2~4週間で徐々に手術した足に体重をかけ始めます(靭帯修復に関しては足関節外側靭帯損傷の項を参照してください)。
体重をかけ始めるまで入院することをお勧めしていますが松葉杖歩行が上手にできる場合は短期入院も可能です。